曲紹介|シュレーディンガーの猫

シュレーディンガーの猫
Schrödinger's cat
西村 友(you nishimura)

▼曲の解説
オーストリアの理論物理学者、シュレーディンガーが1935年に提唱した思考実験が、所謂「シュレーディンガーの猫」です。
「ふたをした箱の中に猫が1匹いる。箱の中にはラジウムという原子が一つだけあり、そのラジウムが放射線(α粒子)を出すと反応して毒ガスを出す装置も置いてある。仮にラジウムが放射線を出す確率を1時間に50%だとすると、1時間後の猫は死んでいるか生きているか?」という架空の実験。「生きてるか死んでるか、どちらかに決まってるじゃない!」と結論を急ぐなかれ、量子力学上は「この猫は死んでいる状態と生きている状態が両方重なり合っている」と認識するのです。
(中略)
人の心にも世の中に起きるいろいろなことにも、白黒つけにくいことたくさんありますよね。「Aさんも好きだけどBさんも好き」「辛いけれど楽しい」「同時に存在する多元宇宙」等々…。答えは無限にあるようにも、一つの真理に近づいていくようにも見える…曲は常に二つの要素を含みながら進んでいきます。例えば鏡に映った相反するメロディ、交互に現れる一番遠いコード、一つの和音がトリルによって瞬間さまざまな色を行き来する世界、等々。さて、先ほどの「シュレーディンガーの猫」、結局のところ死んでいるのでしょうか生きているのでしょうか?答えは簡単。「ふたを開けてみれば良い」のです。謎は続くとしても、まずふたを開けてみましょう。答えはそこにきっとある…かもしれない。


▼青陵として
青陵ウインドでは西村友先生の曲がバンド維新に取り上げられたタイミングの後、ある英雄の記憶が吹奏楽コンクールの課題曲となり、できうる限り西村友作品に取り組みたいと演奏した曲目。標題音楽ではなく絶対音楽的に作曲された曲ですが、よくよく聞いていくと過去の西村作品に使われている旋律が登場する(サクソフォンのためのラプソディ参照)。スキップするように上下する木管を中心とした旋律は猫を描写しているであろうテーマは曲を通して幾度となく登場する。抽象画のようなつかみどころのないメロディの中にいくつか特徴的に使い分けた「可能性」や「暗示」などがわかりやすく登場して想像力を掻き立てる1曲。

作曲西村友、指揮西村友という存分に西村友の世界感を味わえたい一曲だった。